暗号資産におけるロスカット（清算）とは何ですか？

暗号資産におけるロスカット（Liquidation）とは、借入資金（レバレッジ） を使って開いた取引が、取引所によって強制的かつ自動的に決済される状況を指します。これは、資産価格があなたのポジションとは反対方向に動き、取引を維持するための自己資金（証拠金・margin）が不足した場合に発生します。簡単に言えば、取引に投入した資金を失い、取引所が自らの損失を防ぐためにポジションを強制終了するということです。

この仕組みがどのように機能するのか、なぜ発生するのか、そしてどのように回避できるのかを詳しく見ていきましょう。

マージントレードとは？

ロスカットは、マージントレードの直接的な結果です。マージントレードとは、取引所やその取引所の他のトレーダーから借りた資金を使って取引を行う方法です。

自分の資金に対して、どれだけ他人の資金を使うかによってレバレッジが決まります。たとえば、10x（1対10）のレバレッジを使う場合、1 USDTごとに取引所がさらに9 USDTを追加します。あなたは自己資金として10ドル（これが証拠金、つまりmargin）を出し、100ドル相当のポジションを運用していることになります。レバレッジを高くすればするほど（例：50xや100x）、わずかな価格変動で証拠金全体を失う可能性が高くなります。

従来の金融市場では、取引資金は主に銀行から提供されますが、暗号資産の世界では、流動性の供給源は多くの場合、他のユーザーや取引所内の資金プールです。これらの資金提供者は利息を受け取ります。取引所は借入資金が必ず返済されることを保証しているため、トレーダーが負債を抱えないよう、損失の出ている取引を迅速にクローズする必要があります。そのため、ロスカットは非常に速く、自動的に行われます。

ロスカットはいつ発生するのか？

ロスカットは偶然に起こるものではなく、正確に定義されたタイミングで発生し、そのタイミングは計算可能であり、計算すべきものです。

実際には、取引所はあなたの取引に関連する2つの重要な価格水準を監視しています。それが、ロスカット価格と破綻価格です。

• ロスカット価格 は、常に破綻価格よりも少し早く到達します。

• 破綻価格 とは、その取引における自己資金（証拠金・margin）が完全にゼロになる価格です。

取引所は、管理手数料やロスカット手数料を支払えるだけの資金が残るよう、ロスカット価格に達した時点でポジションの強制決済を開始します。その結果、口座残高がマイナスになることや、取引所側が損失を被ることを防ぎます。

そのため、最も注意深く監視すべきなのはロスカット価格です。

ロスカットされると何が起こるのか？

ロスカットの結果は、資金の損失だけでなく、追加コストの発生、そしてポジションに対する完全なコントロールの喪失です。

ロスカットが発生すると、取引所は現在の市場価格であなたの取引を即座に強制決済します。あなたはその取引に投入した**Initial Margin（初期証拠金）**をすべて失います。さらに、残っている資金からロスカット手数料が差し引かれます。この一連の処理は、あなたの操作なしに行われます。

ロスカット手数料とは？

ロスカットは無料ではありません。取引所は、損失の出ているポジションを緊急で決済するための特別な手数料を請求します。この手数料は、運営コストや決済プロセス中に発生し得る損失を補うためのものです。

手数料の額は負債の金額に依存し、たとえば返済額の2%になることもあります。この手数料は、ロスカットされたポジションごとに一度だけ請求されます。 手数料の仕組みは以下の通りです。

• ロスカット後に十分な資金が残っている場合、手数料は全額差し引かれます。

• 残りの資金が不足している場合、取引所は残っている全額を回収します。

回収されたすべてのロスカット手数料は、特別な保険基金に送られます。この基金は、デリバティブ取引システム全体を支える重要なセーフティネットとして機能します。

ロスカットの例

実際の動きを理解するために、分離マージン（isolated margin）を使った取引におけるロスカット価格の計算例を見てみましょう。

以下の標準条件で、Bitcoinのコントラクト取引（BTC/USDT）を例にします。

• 必要最低証拠金（Maintenance margin, MMR）：0.5%

• エントリー価格（Entry price）：75,000 USDT

• 取引サイズ：1 BTC

• レバレッジ：50x

ロングポジション

トレーダーがロングポジションを開きます。価格が下落するとロスカットが発生します。

75,000 USDT相当の1 BTCを50xレバレッジで取引する場合、必要な自己資金（初期証拠金）は1500 USDTです。取引所は、口座内に最低375 USDT（維持証拠金）を残すことを求めます。つまり、1125 USDT（1500 − 375）までの損失に耐えられます。

1. 計算。 許容損失は1125 USDTです。1 BTCを取引しているため、価格が1125ドル下落すればロスカットされます。

2. ロスカット価格。 75,000 USDT（エントリー価格） − 1125 USDT（許容損失） = 73,875 USDT

Bitcoinの価格が73,875 USDTまで下落すると、ポジションは自動的に決済されます。あなたは1125 USDTとロスカット手数料を失います。

なお、ポジションにはいつでも追加資金を入れることができます。たとえば、追加で3000 USDTの証拠金を入れると、ロスカット価格は大きく下がり、70,875 USDTになります。これは、追加投資によって取引がより安定することを示しています。

ショートポジション

トレーダーがショートポジションを開きます。価格が上昇するとロスカットが発生します。

初期証拠金と最低証拠金は同じで、1500 USDTと375 USDTです。許容損失も同様に1125 USDTです。

1. 計算。 この場合、価格が1125ドル上昇すると1125 USDTの損失が発生します。

2. ロスカット価格。 75,000 USDT（エントリー価格） + 1125 USDT（許容損失） = 76,125 USDT

Bitcoinの価格が76,125 USDTに上昇すると、取引所はポジションを強制決済します。

分離マージンモードでの「危険価格」を計算する簡単な式は以下の通りです。

• ロングポジションの場合： ロスカット価格 = エントリー価格 −（初期証拠金と維持証拠金の差 ÷ 取引サイズ）

• ショートポジションの場合： ロスカット価格 = エントリー価格 +（初期証拠金と維持証拠金の差 ÷ 取引サイズ）

ロスカットを追跡する方法

どれだけ多くの取引が強制決済されているかを把握することで、市場全体のセンチメントや価格の動きを理解しやすくなります。

ロスカットは通常、1人のトレーダーだけに起こるものではありません。多くのトレーダーにとって「危険価格（ロスカット価格）」が集中する水準に価格が到達すると、「カスケードロスカット」と呼ばれるドミノ現象が起こります。

仕組みはこうです。価格が重要な水準まで下落すると、取引所は多数のロングポジションを自動的に決済します。これらの強制売却が市場への売り圧力を急激に高めます。そのため、専用の分析プラットフォームを使ってロスカットの集中エリアを追跡することは、トレーダーにとって重要な手段です。

監視に使われる主なリソース

大手取引所のロスカットデータを収集している分析サイトがあります。

1. CoinGlass ロングとショートを分けて、トレーダー全体のロスカット総額を表示します。特に有用なのが、ロスカットマップ（ヒートマップ）です。どの価格帯に大量の未決済ポジションが集中しているかが分かり、価格がどこへ動きやすいか、つまり流動性が「回収」されやすい場所を把握できます。

2. CoinAnk ロスカット量やオープンインタレストを可視化する重要な機能を提供しています。これらのデータを分析することで、市場の心理状態や、過度なレバレッジによって市場が過熱していないかを判断でき、大きな反転が起こる可能性を見極める手がかりになります。

これら2つのプラットフォームは、視覚的に分かりやすい点から特に人気がありますが、他にも多くの分析ツールやサービスが存在します。検索エンジンを使って、自分にとって最も使いやすく有益なものを選ぶとよいでしょう。

ロスカットを避ける方法

ロスカットは予測の失敗ではなく、リスク管理の失敗です。これを避けるには、厳格な規律が必要です。

1. 保守的なレバレッジを選ぶ

基本ルールは、レバレッジが低いほど「危険価格」がエントリー価格から遠くなるということです。3xや5xのような低レバレッジであれば、通常の市場変動に耐えられます。

初心者は高レバレッジ（X50、X100）を使うべきではありません。わずかな不利な値動きでもロスカットされる可能性が非常に高くなります。

2. 1つのポジションに資金を集中させない

全資金を1つの取引に投入しないでください。資金の一部だけを使い、適度なレバレッジで取引することで、精神的なストレスを減らせます。恐怖やパニックは非合理的な判断を招き、最終的にロスカットにつながりがちです。

3. 分離マージンを優先する

初心者は分離マージンモードで取引しましょう。特定の取引に割り当てた資金だけがリスクにさらされるため、問題が起きてもその金額以上を失うことはありません。

4. 積極的に証拠金を追加する

分離マージンでは、ポジションを救うチャンスがあります。価格が不利に動いても取引の見通しに自信がある場合は、手動で追加の証拠金を入れましょう。ロスカット価格を遠ざけ、相場の変動を乗り切る時間を確保できます。

5. 維持証拠金の要件を定期的に確認する

取引所のルールは変更されることがあります。多くのプラットフォームでは、大きなポジションを持つとMMR（最低証拠金率）が引き上げられます。MMRが上がるとロスカット価格がエントリー価格に近づき、リスクが高まります。常に最新の条件を確認しましょう。

6. 必ずストップロスを使う

ストップロス は保険のようなものです。あらかじめ許容できる損失水準に達したらポジションを閉じるよう、取引所に指示する注文です。ロスカット水準に到達する前に設定することで、証拠金の一部を守り、ロスカット手数料という追加コストを避けられます。

暗号資産におけるロスカットは、レバレッジを使って開いた取引が維持できなくなったときに訪れる、自動的で避けられない結末です。これは、証拠金が借入金をカバーできなくなった際に作動する保護メカニズムです。成功の鍵は、市場の行き先を完璧に当てることではなく、厳格な規律とリスク管理にあります。

この記事を通じて、暗号資産におけるロスカットとは何か、どのように起こるのか、そしてどのように回避できるのかを理解していただけたなら幸いです。まだ疑問があれば、ぜひコメントで質問してください。